誘われたセラピスト

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その日、ロサンゼルスは珍しく雨だった。オフィスから外を眺めながらの頭に浮かぶイメージは、「帰りの運転が大変だなぁ」と言ういやな感じ。ロサンゼルスのドライバーは雨に慣れていない。雨が降ると交通事故が2倍にも3倍にも増える。雨天では、特に、安全運転をしなければならない。そうこう思っているうちに、ふと、視線を電話に向けると、メッセージを表示する灯りが点滅していた。早速メッセージを聞いてみると、どうやらアメリカ人の男性らしく、英語で話していた。

SP:「サイモンと言いますが、夕べ、私の友達である日本人女性が、自殺未遂をしました。今は、病院から出てきて家にいますが、かなり落ち込んでいて大変心配です。彼女は、日本語を話すセラピストが必要と思うんですが、とりあえず至急こちらまで連絡してください。」と入っていて、自分の電話番号が残されていた。私は、次の患者の予約まで数分あったので、電話を返してみた。

SP:「先生、彼女はかなり落ち込んでいて、専門家が必要だと思います。放っておくと危険かもしれない。私がセラピストへ行くようにと進めているんですよ。」

私:「いったい彼女に何が起こったのですか。」

SP:「彼女の旦那と上手く入っていないんですよ。彼女は離婚しようとしているんです。昨日は、随分過酷なことを彼に言われたようで。」

私:「そう。では、とりあえず、彼女に電話するように言ってください。予約を直ぐ出しますから。」

2、3時間後、彼女、STから電話があった。その様子では、かなり落ち込んではいたものの、自殺の危険は通り過ぎたようであった。2日後に予約を取って、来て貰うことにした。

STは、アメリカに駐在員の妻として来て、10年ほど暮らしていた。9歳と6歳の女の子がいた。何れもアメリカで生まれ育った子である。結婚する前、日本で、STは働きながら、今の亭主と付き合っていた。別に、深いつき合いではなかったのだが、彼のアメリカ赴任が決まって、結婚の話しが出始め、短期間で結婚が決まってしまった。彼女は、自らアメリカで一度、暮らしてみたいという気持ちがあったので、彼との結婚が、よいチャンスとも思ったのである。

ロサンゼルス近辺に住み着き、二人の生活が始まった。最初の頃は、思ったより大変であった。引っ越しから始まって、家の整理、そして、少ないながらも、他の駐在員の奥さんとのつき合い、また、ロサンゼルスに住むには必ず必要な、運転免許の取得。慣れない所で、これらをこなしていくのは、大変なストレスであった。ようやく落ち着いたと思ったら、夫は仕事ずくめで、夫婦生活などは、殆どない状態になっていた。友達がまだ少なく、出かけることもあまりできないし、夫は夜が遅く、彼女の独りぼっちの気持ちなどに、耳を傾ける時間もない。STは、楽しみにしていたアメリカ生活とは、全く違う自分の現実を目の前にして、落ち込んだ。

間もなくして妊娠し、最初の子供を産んだ。夫は相変わらず仕事ばかりで、子育てには無関心であった。STは、子供と二人だけの寂しい生活を耐えると同時に、夫に対する期待を、少しずつ減らしていかざるをえなかった。

夫は大変頑固で融通がきかないと、彼女は感じていた。自分の思うとおりにしないと、気が済まず、STの気持ちなどは余り理解をしようとしないように思えた。STは、夫の冷淡さに落胆し、自分の趣味や興味などを、分かち合う気にはなれなくなった。自分の気持ちをただ心の中に秘め、彼からの距離がますます増えていった。離婚をしようと思って、弁護士を訪ねたことも2、3回あったが、子供もいることでもあるし、難しいと思って我慢をし続けた。でもついに、その我慢にも疲れ果てて、夫に離婚の話しを持ちかけたところ、彼は、子供は渡さないし、慰謝料も一銭も払わないと怒った。その上、将来の仕事も妨害して、働けないようにしてやるとおどした。STは、将来の道を皆閉ざされたように思い、希望を失って、手首を切ったのであった。

セラピーが始まって、感情的なサポートをするだけで、自殺行為の再発は止めることができた。STは、セションに来る度に、夫の、彼女に対する過酷な扱いを、延々と語るのであった。自分は被害者で、夫は冷酷な加害者。彼女の辛い結婚生活を語る姿は、私の目の前で、今現在むちに叩かれているかのように、苦痛を訴えてきた。彼女は何年もの結婚生活の辛い気持ちを、次々に吐き出していった。そうこうしているうちに落ち込みは次第に軽くなり、STは、元気と前向きな態度を取り戻してきた。離婚の手続きには至ってはいないものの、次第にその決心は固くなっていった。そして、セラピーが始まって半年ほどたったときである。

ST:「子供は夫の所にいたので、週末は一人で過ごしたんです。」

私:「そう、何をしましたか。」

ST:「別にこれってしたことはないんですけれど、夜になって、大変寂しくなったんです。先生に電話でもしようかと思いました。誰か、私の気持ちを解ってくれる人が欲しくて。こんなこと言ったら、先生困りますか。」

私:(転移が起こりつつある、、、その動きを見守っていかなければならない。)「あなたが、そう言う気持ちがしたからと言って、困りはしないけれど、そう言うときに電話をかけてもらっても、あなたの必要に応じて答えられないかもしれない。それよりここに来て、話してもらった方がいい。」


セラピストはセション以外では、セラピーは出来ないし、セション外で個人的に付き合うわけにはいかない。もし、セション外でクライエントと付き合うと、セラピスト自身がクライエントの生活に入り込んでしまうので、客観性を失い転移を分析することが出来ない。それどころか、クライエントと一緒に転移を演じてしまい、気が付かないうちに、その人の問題を、繰り返してしまうのである。セション内でクライエントの転移を観察し、それをその人に解るように伝えてやって、クライエントが転移に操られないようになるのである。

ST:「そうですか。話しは変わるんですけれど、友達づたいで医者の受付の仕事を見つけたんです。この間の週末、書類整理の必要があると言って、呼ばれたんです。朝、行って働き、お昼近くになったときに先生が、昼食に行かないかと私を誘いました。私が振り向いたら、直ぐ私の後ろに立っていて、私を抱きしめキスをしようとしました。私驚いて、彼から離れ、イヤだと言ったんです。彼も、ちょっと魔がさしたと言って、謝りました。私、すきでもあるんですか。」

私:「やー、そうは思わないけれど、彼もあなたが離婚中だっていうのを知っているでしょう。」

ST:「そう言うわけで、仕事を探しているとは言いましたけれど。」

ここでの可能性は、STの私に対する性的転移が、まだ訳されていず、彼女が職場で、転移を演じてしまったということである。転移は訳されて、クライエントが意識するようになれば、セション外で演じることは少ない。転移がセション内で訳されない場合は、そこで転移が演じられるし、また、セション外でも演じられることがある。

:「あっそう。この事件は意味が深いかもしれないねぇ。ひょっとしたら、転移が起こっているかもしれない。」

ST:「いったいなんですか。」

私:「転移とは、あなたの過去の大切な人間関係が、今ここで再現されると言うことだ。そして、その中には、過去のあなたの欲求まで含まれているんだ。この場合、あなたとあなたの父との人間関係の側面が、私と再現されているみたいだ。その上、私に対する気持ち、すなわちあなたの父に対する気持ちが、職場まで移動してしまって、無意識のうちに医師の先生と演じられてしまった、と言うことだ。どう、私に電話をかけようとしたのは、いつのこと?」

ST:「確か金曜日の夜です。」

私:「そして、働きに言ったのは土曜日だっていうわけか。あなたの寂しい気持ちが、土曜日オフィスでどうにか現れたのではないかな。」

ST:「知らないうちに先生がそれを感じていて、彼が私に迫ってきたと言うことですか。」

私:「どう、何となく解りそう?」

ST:「はい、解ると思います。では、あの先生との仕事、どうすればよいのですか。」

私:「まだ、止めたくないでしょう。何もなかったように、仕事を続ければいいんじゃないかな。向こうだって悪く思っているだろうし、もう繰り返しはしないだろうから。そのまま、大人として付き合っていけばいいと思うよ。」

ST:「先生、この後、何か予定はあるんですか。」

私:「と、言うと?」

ST:「ちょっとワインでも飲みには行けないかと思って。」

私:「それは出来ないんだ。あなたがどんな気持ちを私に対して持っていても、又は、あなたの欲求を言ってくれても、私はそれを理解しようとする。そして、それをあなたに教えてあげる。それが私の役割なんだ。でも、それを二人でセションの外で演じてしまっては、セラピーがそこで終わってしまう。あなたにとって一番よいことは、私がセラピストとしてあなたの分析を続けることだと思うよ。もし、二人で外で楽しんでしまったら、あなたの転移を分析できなくなってしまい、その上、あなたの過去の問題、すなわち転移を繰り返してしまうことになる。それは最終的に、あなたのためにはならないと思うよ。」

ST:「でも、先生は私のことを本気で思ってくれているんですか。」

私:「一生懸命あなたを助けることが、あなたのことを思っている、と思うけれど。」

ST:「でも、私が本当に必要としていることは、先生が私を抱いてくれたり、外で時間を過ごしてくれることだと思いますが。そうしたら、私ももっと自信が持てるし、心も落ち着いて、精神的によくなると思います。」

私:「私がそうしたら、あなたは一時的に、よい気分になるかもしれない。でも、その後が大変だ。」

ST:「どういうことですか。」

私:「これは私の予言だけれど、あなたは一時的には満足するかもしれないが、そこで終わらないと思うんだ。私の時間をもっと必要になる。勿論、私にも限度があるから、断らなければならなくなる。そうすると、あなたはフラストを感じ、私に対して怒るようになる。」

ST:「そんなことないと思います。先生を本当に好きだと思うから。」

私:「ところが、あなたは私を本当は好きではないんですよ。これは、過去から転移された気持ちなんだ。そしてその転移は悪性のものもある。すなわち、あなたの父に対する怒りも、現在に再現されるんだ。現に、あなたの夫に対する気持ちは、父に対する怒りの再現であると言ってもいい。それを演じることによって、夫が悪者に見える。そしてそれは私にも転移されるものなのだ。それが起こったとき、セション内では客観的に観察ができ、あなたのために訳してやることが出来る。でも、セションの外では無理だ。遅かれ早かれあなたは、私をあなたの夫のように、悪者として見始めるだろう。その様にして、過去の父との悪い関係を繰り返してしまうのだ。それを止めるには、私がセション内で、転移を訳すしかない。解るかなぁ。」

ST:「では、私の先生に対する欲求は、満たされないんですねぇ。」

私:「満たされる欲求もあるし、満たされない欲求もある。どちらにしても、その欲求がいったい何であるか理解することは大切だよ。私に対して欲求がでてきたのは転移であり、その欲求が私と直接関係ないことを解ることは、大切なことなんだよ。あなたはセション内で、何でも思うことを言っていい。でも、それをセション外で私と実行することは出来ないのだ。」

STは完全に転移の意味が分からなくて、大分がっかりしてセションを去った。転移は、セラピストには直ぐ解っても、クライエントには簡単に理解できない。であるから、転移が続く間、その訳を何度も何度も機会を得て伝えなければならない。STも、このセションだけで私に対する要求を止めたわけではない。その後、2、3セション似たような内容が繰り返された。つまり、彼女の寂しさを満たすために、セション内又はセション外で、私が何かをしてやることを願ったのである。でも、私はそれをそのまま受け入れることはせず、ただ、彼女の欲求がどういうものであるか、理解と説明を続けた。そのうちに、彼女からの要求は止まり、また自分のことを話し出したのである。

3ヶ月ほど過ぎた。相変わらず夫に対する怒りと苦情は多く、その様な話を聞くだけで終わってしまうセションも少なくなかった。特に変わったことと言えば、STが働いているビル内で、男友達を作り、つきあい始めていたことである。

私:「どんな感じの人?」

ST:「そうですねぇ、彼は随分マイペースな人です。自分のことをよく解っていて、余り他人に左右されそうもない人。静かで、何を考えているのかよく解らない人です。でも、何か寂しそうなところがあって、面倒を見たくなってしまうんです。お料理をしてやったり、買い物をしてやったり、、、」

私:「へぇ。あなたは彼に対してどのような欲求があるの。」

ST:「別に何もしてもらわなくれもいいんです。彼の側にいて、いろいろしてやって、彼が幸せなら、私も満足なのです。」

私:「でも、自分の欲求だってあるでしょう。前に、私に対して欲求を向けていたことだってある。」

ST:「今度は、彼に対して何も要求をしてないんです。彼と一緒にいて、彼のためにいろいろしてあげるのが欲求なんです。」

私:「と言うことは、あなたは自分の寂しさを、彼の中に見ているのかもしれない。彼にいろいろしてあげるのは、実は自分にしてやっているようなものかもしれない。つまり、自分を彼の中に見て、その自分にいろいろしてあげて、満足をしているというわけだ。」

ST:「この人は、今日本に帰国しようかどうか、考えているんです。アメリカでも余り面白くは行ってないそうで、日本の親の面倒も見たいとも言っています。」

私:「もし、日本に帰ったらあなたはどうするの。一緒に行こうとでも思っているのかなぁ。」

ST:「いいえ、私はついては行けませんし、行きたくもありません。この人はいつ私を去ってもいいんです。私といたいだけいて、行きたかったらいつでも行っていいんです。彼の自由なんです。それを承知で愛しているんですから。」

私:「へぇー、随分寂しいような、さっぱりしているようなことを言うねぇ。」

STの態度は、大分変わってきていた。約3ヶ月前の私に対する転移の状態とは随分変わっている。あのときは、自分の欲求が強くて、それを満たすのが先立っていた。相手の気持ちより自分の気持ちを優先していたのである。あのとき私は、彼女にとって単なる手段であった。それは所有的な愛情で、小さな子供が親に対して求める人間関係である。でも、今回のは、所有的なところがない。彼と一緒にいることを楽しみ、彼を通して自分の欲求を満たし、彼がいつか去るかもしれないことを十分受け入れた態度をしている。

私:「なんだか急に大人になったみたいだね。数ヶ月前まで、私にこうしてくれ、ああしてくれとねだっていたのに、今は随分相手の自由を尊敬しているみたいだ。」

ST:「何を要求しても、だめなときはだめですからね。相手がしたければ、してくれます。私がどうこう言っても重荷になるだけです。それより、彼を自由に愛して、それを楽しんだ方がいいと思います。彼が私を愛返してくれるんだったら、それは嬉しいですけれど、必ずしもそうなるとは思いません。」

私:「あっそう。これは、前にあなたが私に対して欲求をぶつけたけれど、その時、私がそれを受け入れなかったことと関係があるのではないかなぁ。つまり、もしあのとき私があなたの欲求を満たしていたら、その時はよしにしても、再び欲求が戻ってきたと思うんだ。でも、私はそうしなくて、あなたもそれが理解できたようだった。そして次第に、私に対する欲求を止めていった。今度、ボーイフレンドが出来たわけだけれど、彼に対して、欲求を余りぶつけてない。彼にどうしてこうしてと頼んでいないわけだ。彼という人物を尊敬し、彼の気持ちを解った上で愛している。彼を束縛することもない。これは、彼に対して転移を起こさずに、彼そのままの人物を現実的に見て、人間関係を作りつつあるということだ。これはいいことだと思うよ。一つ成長したみたい。」

ST:「そうなんですか。そう言ってくれると嬉しいですけれど。確かに以前人を好きになったのと感じ方が違うと思います。自分の欲求もまだありますが、それを単に人に頼って満たそうとはする気がありません。たまたまそう言う人がいてくれれば、嬉しいとは思いますが、それなら運がよいと思います。」

私:「まあ、そう言うことかな。でも、そういう人間関係から始まって、それが長く続き、信頼関係が生まれてくれば、自分の欲求をかなえられることもある。それが結婚生活であろうが、男女交際であろうがだ。」

ST:「どういうことですか。」

私:「人間関係ができあがるときは、現実的な要素が必要だ。その関係が、ファンタジーであってはだめだというわけだ。自分も相手も現実的に見て、その上で、信頼のある関係を作らなければならない。でも、それがある程度まで出来たら、お互いに転移たる過去から流れ込んだ欲求をかなえることも出来るはずだ。ある欲求を転移であると認め、相手の許しを得た上で、その欲求をアクトアウト(実行)できるということだ。相手はその時、承知の上で、欲求を満たしてあげているというわけだ。ちょうど相手が、あなたの父を演じることを承諾して、あなたの欲求を満たすために、何かをしてあげてやるみたいだ。勿論、その代わり、あなたも相手のために何かをしてあげるだろう。例えば、彼のために、彼のお母さんのように振る舞い、彼の甘えん坊を満たしてやることだ。」

ST:「面白いですね。上手くできたら楽しいでしょうね。」

私:「そのためには、自分の欲求がいったい何であるか、よく解っていなければならない。意識して転移を実現させるのだから、その転移がいったい何であるか解っていなければならないと言うことだ。前に、あなたが私に対して転移を向けたとき、私はそれを満たさなかったけれど、あなたに説明をしたでしょう。そうすることによって、あなた自身の転移について理解が増え、それをコントロールするだけでなく、適当な人間関係の中では、演じて満たせることが可能になるからだ。」

ST:「そう言うことだったのですか。今思ってみると、先生が私と出かけてワインを飲まなかったことが、大切なことなのですね。」

この男性とのつき合いは、その後半年ほど続いた。それから彼は日本に帰った。STは、悲しみをこらえて、彼を空港まで送っていき、別れを告げたのである。

私:「これからも連絡をしあうんでしょう。」

ST:「いいえ、これでおしまいなんです。一応彼の連絡先はありますけれど、コンタクトを取ろうとは思いません。」

私:「やー、随分厳しいんだね。ちょっと自分にきついんじゃないかな。」

ST:「いいえ、最初からこういうつもりでしたから。」

私:「でも、相手の自由を尊敬するからって、彼が何かを言ってくるまで何もしないってことはないんだよ。確かに、今までの人間関係は終わった。でも、二人の人間関係が完全に終わったわけではない。これからも何かの形で、また違った形で続いてもいいんだ。そして、将来何かのきっかけで、深い関係が再発するかもしれない。それを期待していてはいけないけれど、その可能性を完全に省いてしまうのもおかしい。そう思わない。」

ST:「そうかもしれません。少し気が楽になりました。気が向いたら、クリスマスカードでも送ってみます。」

STはその後暫く落ち込んだ。やはり別れは辛かったようである。でも、別れを積極的に受け入れたせいか、立ち直りも早かった。暫くして、彼が日本でどうしているか、彼女に聞いたことがあるが、コンタクトはお互いになかったようである。

彼女と夫との離婚は成立した。セラピーが始まった頃の彼女は、自分に自信がなく、依存性も高くて、夫の代わりに誰か頼れる人を捜していたようであった。セラピー中、いろいろな人と出会い、恋愛もした。セラピーが終わる頃までには、一人の立派な女性として独立し、新しい職について、せっせと働いていた。ただ寂しいという気持ちだけで、男性との関係を探す気配は、全くと言ってよいほど見えなくなっていた。その様にして、2年ほど続いたセラピーが終わったのである。
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