見つめる自分

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今年の1月に「語られた自分」のことについて書きました。私たちは知らないうちに自分の歴史を書いているという話でした。今回はその歴史を書くにあたって、自分の行動や反応を「観察する自分」について考えてみようと思います。

私達が何かを夢中にしている時に、「ふと気が付くと」といって自分を見返すことがあります。そのふと気がつく人のことです。人というか、自分の中の一部です。自分の行動を反省するときもこの自分を使います。ですからこの自分というものは、「自分について見つめる自分」であると理解してよいでしょう。

考えてみればあたりまえで、私たちはよく自分のことを振り返ってみます。そうすることによって、自分の言動を見つめ、それが適当であったか改善の余地があったのか判断をします。こういう自分がいないと、私たちは自分を改善することが難しくなってしまいます。動物のように、ほとんど学ぶことが条件反射的になってしまうでしょう。

自分を改善するために行われるサイコセラピーでも、この見つめる自分をよく使います。患者さんがセションで自分について話します。最近あったこと、昔あったこと、家庭での出来事、職場での出来事、愛人との出来事、そして自分で苦しんでいること、といろいろお話をします。それは普通だったら見逃してしまう事柄でしょう。私たちは日常ふと自分を振り返ることはあっても、わざわざ時間を設けて誰かと自分の言動を振り返ることまではしません。

自分を見つめることによって、新しい発見があることでしょうが、もう一人の人、つまりセラピストが一緒になって自分の言動を振り返ると、またまた新しい発見があると思います。それは普段の自分を振り返ることに客観性与えるだけでなく、セラピストが患者さんの成長や健康を頭に置きながら、その人の言動を振り返るからなのでしょう。

もちろんセションでは自分について振り返ることだけをするわけではありません。多くの患者さんは、自分で悩んでいることを話します。自分の悩みを話すと、悩みについて話し出しますが、そのうちに悩みじたいをセション内で経験することもあります。悩みについてセラピストに話していたら、本気で悩み始めてしまったというわけですね。

悩んでいる人は、悩みに夢中でそれに入り込んでいますから、自分を見つめることを忘れています。悩む自分について新しい発見は難しいです。でも、そんな時にセラピストが自分を見つめていてくれます。そして悩む自分についてセラピストが発見したことを伝えてくれます。セラピストが患者さんの「見つめる自分」を代行してくれているんです。

患者さんももう少しうまくなると、悩みながら自分を見つめることが出来るようになりますし、悩みながらそれをある程度客観的にセラピストに伝えることが出来るようになります。そうすると興味深いことが起こりだすのです。先月の課題で自分の注意が問題から他の行動にそれることによって、問題が減ってくるという話をしましたが、正にそれが起こりだすのです。つまり、悩みを感じながら、セラピストに客観的にお話をする、注意が悩みからセラピストへ、そして悩みへ、そして客観的な言葉へ、そしてセラピストへと移動しているではないですか。その結果、悩みの力がだんだん減っていきます。面白いですね。

昔、私が学生だったころ、そのころ熟練セラピストであり私の先生が、セションで泣き出した患者さんへ言っていました。「泣きながら話なさい」と。なるほど

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