過去は現在に属す

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≪過去のトラウマからノイローゼに≫

心理的問題、特にノイローゼと言われるものは、過去に起こったトラウマ(精神的外傷)が原因となって発病するものだと言われてきました。これは一般的によく受け入れられている説だと思います。例えば、幼児期に親から無理に離されて異常反応をし、それがトラウマとなって心に残ったとします。その後、何年も経て、本人はもうそのことを忘れてはいますが、何かのきっかけでトラウマがよみがえり、不安症におちいったりすることは、決してまれなことではありません。

ここで私がよく質問をされることは、「もし、原因が過去にあるのだとしたら、過去はもう過ぎ去ってしまったのだから、いかにしてそれを治すことができるのだろう?」ということです。この議論は日常よく聞くアドバイスにも展開します。すなわち、「もう過ぎたことなのだから、くよくよしないで忘れてしまい、前を向いて歩みなさい。」と。

≪性格と外からのストレスの相互作用≫

でも、もっと新しい考え方ですと、ノイローゼは、人の性格と外からのストレスの相互作用によって発病するとされているのです。私たちは環境内で起こる事柄に個人的でユニークな反応をします。それが私たちに性格として、現在、存在するものです。ストレスも環境からの刺激ですから、現在に存在してます。いったい過去のトラウマは何処に行ってしまったのでしょう。

それは、性格の中に存在しているのです。トラウマが性格を形成する一つの材料となっていたのです。もちろんあまり喜ばしい材料ではないかもしれません。でも、それが性格を特徴づける一因となっていたのです。そして、現在の性格を通して表現されていたのです。過去のトラウマは、そのままの形では存在していませんが、性格の中に変形して存在し、今でもその力を発揮しているのです。それが、たまたま起こった環境からのストレスと相互作用し、ノイローゼとして発病するのです。

とするならば、もう過去のトラウマを治す必要はありません。すなわち、現在この場で性格の一部として変形したトラウマを発見して確認し、それを治すことによって、ノイローゼを治すことが可能になるわけです。


≪急にパニックになったある男性の場合≫

ある男性が職場で急にパニックになり、緊急病院に運ばれました。彼自身は、心臓病で死ぬかのかと思って、パニックの上にまたパニックになっていたのですが、幸い心臓には異常なく、鎮静剤だけを投薬されて落ち着き、数時間後には家に帰ることができました。この人は過去数週間働きづめで過労していました。その上、上司とうまくいっておらず怒りをためていたこともありました。この男性の父親はたいへん厳しい人で、小さい時から彼をよく働かせました。反抗するものなら、子どもを勘当するほど怒ったのでした。

それに対して小さな彼は、怒りを押さえながら大きくなったのです。大人となった彼の性格は、少年時代の不安定な環境を反映したびくびくの臆病者であると同時に、父親の怒りやすい性格を受け継いで、少しでも自分に都合が悪いことが起こるとすぐ挑戦的に怒る面も持っていました。

彼の場合、環境からのストレスは次から次へと仕事を与えた上司でした。昔の父親を思い出したかのように怒りをためていったのはこの人特有の性格でした。過労と怒りが頂点に達したところでパニックになり、疲れと怒りのエスカレーションを止める結果になったのです。もちろん治療に当たっての焦点は、過去の父親との関係ではなく、現在存在する対立的になりやすく、他人を恐れたり怒ったりする彼の性格の部分でした。

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