2009年8月アーカイブ

(トーランスあさひ学園での講演のまとめから)

 バイリンガルになるといることは、それに伴う利点を考えるに及ばないほど、ファッショナブルで、誰でもできるものならそうなりたいと思うことでしょう。確かに異文化の人とお話ができたり、外国語から伝わってくる文化が楽しいのはその通りです。現在や将来の仕事に活用できることは本人の誇りにもつながります。

  バイリンガルになりますと、異文化のカスタムやルールを知らずのうちにも取り入れることになりますから、視野が広がりますし、自分が生まれてから身に付けてきた文化を見直すことができたり、異文化の評価などもできるようになります。すなわちバイリンガルは、同時にバイカルチャラル(2文化)であるということになります。

  例えば日本で英語を習得するだけでしたら、バイリンガルになったとしても、バイカルチャラルになるのは、限られてくるでしょう。なぜなら、文化的、生活習慣的なものは、やはりその文化に入って実際に経験をしないと身につかないものです。

  米語文化に入り、バイルンガル、バイカルチャラルになりつつ、地元の人たちとやり取りをしていきますと、知らず知らずのうちに、「バイアイデンティティー」になっていきます。つまり、それまで自分が日本人であるというアイデンティティーとそれに付け加えて、アメリカ人を元にして出来上がってくる何らかのアイデンティティーが出来てきます。米国在住が長くなればなるほど、その2番目のアイデンティティーが強くなり、それまでの日本人としてのアイデンティティーとどっこいどっこいになってきます。いわゆるバイ-アイデンティティーが出来上がってくるわけです。

  やはり、この2番目のアイデンティティーは、1番目と同じく人間関係の中から出来てきます。英語を話しながら地元の人たちとやり取りをすると、相手が自分をどう扱うか、どのような態度で接してくるか、自分をどんな人であると思っているのか、以前日本人とどのような経験があったのか等、さまざまな要因が影響して、ある形の言葉のやり取りが起こります。つまり、相手は自分が何であるかを言葉に含めて伝えてくるのです。これが元になって次第にアイデンティティーが作られていきます。

  何年か前に、私は精神病緊急チームの一員として、コミューニティーへ出向くことがありました。問題の人物と接する事に危険を伴いそうなときには、シェリフに同伴してもらいました。シェリフ曰く、「あまり言ってはいけないことでけれと、我慢ができない。 "There is a nip in the air." 」(訳:空気がちょっと冷たい。)私が冗談の意味を解らずにキョトンとしていると、説明してくれました。nipとは日本人の軽蔑後で、私を見下した言い方なのでした。「いやな日本人がいる。」とでも言いたいのでしょうか。

  相手の持っている自分のイメージをそのまま飲み込んでしまったら、結構悪いアイデンティティーが出来上がりそうです。しかしながら、良かれ悪かれいろいろなメッセージが言葉に隠れて伝わってきます。気をつけていないと、知らない間に自分の第二のアイデンティティーが、尊敬されない差別されたマイノリティーのイメージになってしまいます。

  そこで思うのですが、第二のアイデンティティー、または第一と第二の両方のあり方とは何が適当なのでしょう。明らかに、第一のアイデンティティー、すなわち誇りある日本人と第二のアイデンティティー、差別された日本人では矛盾が多くてやっていけません。そのようなアイデンティティーは精神的に害がありますし、幸せな海外在住にはならないでしょう。

  理想としては、自分から受け入れられる二つのアイデンティティーが出来上がって、それについて自尊心が持てることでしょう。その上この二つのアイデンティティーが存在する以上、それは新しいアイデンティティーが出来上がる途中であることも知らざるをえません。すなわち、二つのアイデンティティーの間に、コミューニケーションが増え、次第に一つのアイデンティティーとなっていくのだと思います。最終的に出来上がっていくものは、日本人でありながらそうでなく、アメリカ人でありながらそうでなく、多面化された一個のアイデンティティーとして形成されていくのではないでしょうか。

 

house.gifSweetHeartのコメント

 

nip in the airの定義

a cold feeling; cold weather.

例文1)I felt a little nip in the air when I opened the window.

例文2)There's more of a nip in the air as winter approaches.

nip には、日本人の蔑称の意味があります。日本人=nipponjin から来た言葉。

元々は第二次世界大戦の頃の真珠湾攻撃から来ているようで、寒い時に it's a bit Pearl Harbor → There's a nasty Nip in the air → There is a nip in the air.

となったようです。