中島和子先生(トロント大学)
| SweetHeartの「心の肥やしになる本」コーナーでも紹介している「バイリンガル教育の方法」 −地球時代の日本人育成を目指してアルクの著者であり、長年トロント大学でバイリンガル教育の研究をされている中島和子先生が、息子の学ぶプリンストン日本語補習校に講演にいらっしゃいました。 とても笑顔の素適な27才の息子さんがいらっしゃるとは思えない若々しく魅力的な方で、講演も、2時間という長さを忘れてしまうほど、興味深く、内容の濃いものでした。 講義内容は、対象が外国に暮らす親達のためのものだったので、英語環境で暮らす子どもたちのための日本語の保持ということに焦点が置かれましたが、日本語を英語に置きかえれば、日本に暮らし、子どもに英語を学ばせている方達にも非常に役に立つと思います。(講演内容の掲載に関しては中島和子先生に許可を頂いております。) |
A.子供の言葉は環境の産物
- 子供を取り囲む親、兄弟がどんな言葉を話しているか(家庭環境)
家庭において、兄弟がいた場合、子どもは親よりも、上の子どもが使う言語の影響をより受けやすい。(上に二人の兄弟がいて英語での会話が通常の場合で、親が日本語を使う場合、3番目の子が言語の混乱をきたした例もある。)
- 学校でどんな言葉を使って勉強するか(学習環境)
- 母語が伸びやすい環境か、母語が伸び悩む環境か(社会的環境)
C.一つ以上の言葉を同時に育てるための必要条件と十分条件
読み書きの力を伸ばすには、読み聞かせ、音読、作文が良い。(教科書に漢字が増えてきた場合、ふり仮名をふってしまうと、結局、漢字には目が行かないので、テープなどに吹きこんで音で聞かせるとよい。)
D: 家庭でできる日本語・英語支援
その他
- バイリンガルになるための語学の上達に大切なのは、その言語を勉強することでなく、その言語で勉強することである。語学学校などに通っての語学のみの勉強では、日常生活で使える程度の語学しか身につかない。
- 駐在や、国際結婚などで、海外に住んでいる場合は、日本語を使う家庭は、外国語の大海の中に浮かぶ島のようなものである。このような環境では、どうしても外国語が強くなってしまうのが当然であり、母語を伸ばすのは、相当の努力が必要。4〜8歳までの間にしっかりした日本語を身につけさせないと、日本語が消滅してしまう。
- 駐在などで、海外に出て、子どもを現地校にいきなり放り込んでしまう場合が非常に多いが、子どもにとっては、これは全く泳ぎを知らないのに、いきなり海にど真ん中に連れて来られて突き落とされたも当然であり、非常に苛酷なことである。このこのような「Swimm or Sink」という状況では、約20%の子はうまく泳ぐことを覚えるが、そうでない子も当然出て来る。
- 言語の習得は、こどもの性格によるところも大きい。社交的でおしゃべりな子は、外国環境にあっても、積極的に交友関係を結ぼうとするために言葉のやり取りも増え、習得も早まるが、無口な子の場合、その2〜3の年月を要してしまうこともある。
- バイリンガルの子は、他人の気持ちを察することに長けている。モノリンガルの子は、異言語の子を排除したグループを形成しがちだが、バイリンガルの子は、異言語、異文化に対する許容力が大きい。
湯川笑子
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春希には、中学との交渉の末、英語の授業時間で暇な時には自分のレベルに あった英語の勉強をしてもよいという許可をこの夏にいただいた(ここまでくるのに1 年半かかりました)ので、アメリカで出版されているTOEFLの問題集を一冊与え(答え 付 き)、それを全部学習するように指示。時々進捗状況を私がチェックし、キーになると ころは家で解説するつもり。私は今も春希がどの高校、どの大学に進むべきか毎日考え ています。学校案内にも出かけています。
というふうに、湯川家のバイリンガル子育ては今も続いています。子どもが1 8歳にな って家を出て行くまで続くのでしょう。本の最後の章にも書きましたが、本当にバイリ ンガル子育ては難しく、エネルギーのいる営みです。ふた親のお金、人脈、言語能力、 言語習得や言語教育について知っている知識全て、学校教育について知っていることの 全てを投入する、まさに「全力投球」の営みです。
親の与えられるもの全てをどの子にも与える子育てですが、我が家でも春希と 翔子の個 性が大きく違うように、子ども一人一人の個性が違うので、どういったバランスの、ど の程度のバイリンガルを目指すのかは各家庭で子どもごとに変わってきます。(読み書 き聞き話す、および文化面でも完璧にネイティブモノリンガルの力を2セットもってい るバイリンガルはまずいないので。)ですから、「応援歌」をといってもコースメニュ ーで「これとこれをこうすれば絶対にバイリンガルになれますよ」といった、歯切れの よいわかりやすいアドバイスはできません。
でも、一つだけ言えるのは、もし大学教育を、日本語の学校に通いながら英語 圏でとか 、逆に、英語の学校に通いながら日本で、といった希望をもっていらっしゃるなら、子 どもが誕生してから親の手を離れるまで、ずっと、家庭での豊かな言語トレーニングを 続けねばならないということです。本を読んでやる、自分で読むように本を紹介してや る、本屋や図書館へ毎週連れていってやる、読んだ本や見た映像(テレビ番組や映画) について語りあうなどのトレーニングとサポートです。
学校、地域、マスコミ、友達が 使っていない方の言語を、日常会話以上のレベルにのばすには、この作業が不可欠だと 私は信じています。このようにして得た知的財産、論理的に考える力は、根っこのとこ ろではもう一つの言語へと転移が可能ですから一挙両得です。毎年夏にアメリカへ(日 本へ)というのは、fluencyのためのブラッシュアップや友達からの文化的刺激にはな っても、時間が短いし、所詮バケーションなのだから、lliteracy trainingにはなりにい ので、大した効果を期待するのは無理です。
親にとって苦しい話になってしまいました。私は昭和29年生まれで、戦後の 復興と高 度成長期に、日本中が「がんばって」生きた時代に育ちました。今でもその生き方がかえられず、自分でも時々、マゾヒズム的に苦しむことがすきなのではないかと反省したりします。でもオリンピック選手じゃないけれど、「悔いのないように」と思うし、某 マラソン選手の名言にもあったように、「苦しいのは生きているから」とも思います。 今生きていて、この子らの親でいられることがうれしい、生きて、それが苦行であれ、 何かをしていられることがうれしいのです。
新しい世代の方々は、もっとリラックスしたバイリンガル子育てのあり方をみ つけてい らっしゃるのかもしれませんね。時代は進みます。私の話は私いち個人の意見としてお 聞き下さい。
京都下鴨にて、 湯川笑子